オイカワアユミ[感情の専門家/エッセイスト]
2023年夏、結婚や夫と経営していた会社、故郷、生活の基盤全てを捨てて、人生をリセットさせました。報われない自分に終止符を打ちたかったからーー。この経験が、"結婚"という正解のないチャレンジに対して、あなたが自分らしい答えを見つけるヒントになればと思い、筆をとりました。
第1回:「最高の結婚相手のはずだった。」
第2回:「男女の"感覚の違い"が苦しいなら。」
「しょうがない。結婚しちゃったんだから」
まだ新婚だった頃、用事があって夫の実家に一人行った時のこと。
迎え出た夫の祖母が「あの子と一緒にやっていくのは大変でしょう」と労ってくれた。内心、「そうですね!」と力いっぱい頷きながら、まだまだ遠慮の方が強い時だったので「いえいえ、そんなことないです」と笑って答えた。
すると、おばあちゃんは全てを悟っているかのような顔で、「でも、しょうがないんだ。結婚しちゃったんだから」と、あっけらかんと言い放った。
同情するでも笑うでもなく、からっと言い切ったおばあちゃんが面白くて、「確かに。しょうがない」と肩の力が抜けてしまった。
思っていた結婚生活と違っていても、おばあちゃんの言う通り、「結婚しちゃったんだからしょうがない」と、深く考えずに一旦現実を受け入れてみることも必要なことだと思う。
その上で、やっぱり変えたいなと思うことは改善を試みる。
そうやって、より心地良い生活のために、「関係性を育てる」というのも一つの選択肢。その一環として、「夫を育てる」という方法もある。
心の安定の土台は"生活"なのだから、「報われなさ」といった"気持ちの問題"は一旦置いておいて、夫を育て"生活の問題"を見直すことで結果的に「報われなさ」も軽減する可能性だってある。
10年「報われなさ」に悩んだ私も、本当にそれはそうだなと思うのです。
夫を育てるってどういうこと?
今の20代や30代前半の方たちにはあまり当てはまらないかもしれないけれど、私たち40代ではまだまだ家事をやらない男性も多く、気が付いたら「ワンオペ育児」「ワンオペ家事」になっていたりする。
そういう夫たちは仕事も家事も両方やるようには育ってきていないので、妻が夫を育てて改善を図りましょうというのが、俗に言う「夫育て」だ。
確かに、何をしたらいいか分からない相手を責めたり怒ったりしても、現実が改善される訳ではないですよね。なので、私も一旦、「夫を育てる」方向で動いてみた時期があります。
-『夫育て五ヶ条』
夫育てを成功させた人たちの話を詳しく調べ、五ヶ条にまとめてみたんです、こんな感じで。
これはあくまで私がつくった「五ヶ条」なので、もしかしたらもっと良い方法があるかもしれません。ただ、これらが大体王道なんじゃないかなと思います。
-まずは「名も無き家事」を書き出す
①に関しては、「名も無き家事」を全て紙に書き出して、家事の具体的な内容と、それにかかる労力を夫に理解してもらった妻の体験談を、ネットニュースで読んだことがある。
そんなふうに、まずは何をする必要があるのかを知ってもらうのだ。男性は論理的思考の生き物なので、作業を箇条書きにするのが有効的なのだそう。
その上で、夫婦で話し合って、お互いの状況を考慮しながら分担を決めるのが②。お互いの役割をハッキリさせることで、夫自ら動けるようにする。
-五ヶ条の中で一番大切なのこと
そして、夫を育てる上で最も必要なアクションが③の"褒める"こと。褒めることでやる気を出してもらい、継続してもらうためにまた褒める。そして、家事の質を上げてほしい時にも"褒める"ことは大前提。
④の"任せる"というのは、口うるさく指示したり、ダメ出しをしてしまうと、やる気を削いでしまうので、見守る姿勢も必要だということ。
⑤の"感謝する"は、基本的には③の"褒める"と一緒。ただ、③の子供を褒めているような盛り上げ方に対し、⑤は「あなたのおかげで成り立っている」と、ある種、落ち着きを持って相手を持ち上げるような感じ。
夫育て五カ条、一つもクリアならず
ちなみに私、この五カ条を実際にトライしてみたのですが、全滅しました。
元夫は論理的な生き物ではなかったようで、紙に箇条書きしても全く頭に入らず。口頭でも何度も伝えてみましたが、基本的に家事は自分の仕事だと思えなかったようです。
そして、私の方にも問題はありました。
"褒める"ということがどうしても納得いかなかったんです。
実は私、「夫を育てる」というワードを聞くだけでもモヤモヤしていました。
-「二人の」ことなのに。
対等なはずのパートナーシップで、親が子供を育てるみたいに、なぜ妻が夫を育てなきゃいけないの?と思っていました。
それでも、「自分のために夫を育てるんだよ」という意見を聞いて、実践はしてみたんです。子育てだったら子ども自身のために教育をするのだけれど、夫育ては自分を楽にするためにやる。
それはそうだなと一度自分の気持ちは呑み込んで、夫を褒めながら、家事や丸投げされた仕事を覚えてもらおうとしました。
でも、どうしても「嫌」でした。
子どもやペットに対してなら、褒めて伸ばすことは何の苦も無く出来るけれど、パートナーに対してはどうしても違和感を持ってしまうのです。
二人の生活のことなのに、相手は大人なのに、なぜこちらがスイッチ入れてあげないといけないのか。その疑問を捨てることが出来なかったんです。
-「結婚」って一体何なのか。
ちなみに、同棲時代は夫も、私が仕事で忙しい時はご飯作ってくれたりしていたんですよ。それなのに、結婚したら何だか別次元にワープしたかのように、全くやってくれなくなってしまった。
それを思うと「結婚」って一体何なのか。
何やら強力な「結婚ってこういうもの」っていう古い価値観が未だにあるのは事実だと思うんです。
もしかしたら、男性の方も「養えなければ男じゃない」の呪いにかかっていて、結婚すると必要以上に「仕事、仕事」の意識になっているのかもしれない。
そんな価値感を変えていくには、ある程度時間をかけるしかない。
そして、夫の価値感が妻にとって不利な設定になっているんだったとしたら、やっぱり妻が「育てる側」にならなきゃ変わらないんだと思います。
価値感に善悪は無いので、本人は全く悪気は無いもの。悪気が無い相手を変えるには、こちらから動くしかない。
それでも、やってみる価値は大いにある。
私が何度も「報われなさ」に敗北してしまったのは、相手は夫だけではなく、社会全体だと気づいていったからというのも、実は理由として少なくありません。
でも、社会がどうあれ、向き合うのは目の前の自分のパートナー。
まずは、相手が当たり前と思っていることを確認して、どういうやり方が良いのか、考えを擦り合わせていくのが理想だけれど、それが実際は難しい。夫婦だと感情的になってしまって、冷静に考えを擦り合わせていくのはなかなか難しいかもしれません。
でも、そういう面倒な工程をすっ飛ばして、夫の理想なんてガン無視して、自分の望む方向に持っていける方法が実はあります。
それが、"褒める"こと。
-"褒める"は「魔法」
“褒める”とは、あらゆる理屈を無視して、男性を自分の理想のパートナーにできる魔法なのです。
男性は論理的思考の生き物と述べましたが、物事を把握するには論理的な説明が有効的であっても、夫婦関係に理屈を求めている訳ではありません。
妻が喜んでいる、妻に認められている、それが分かれば十分実行する理由になるのだそうです。
元夫にも「褒めてほしい」アピールは本当によくされておりました。なので、もし私が褒めることが出来ていれば、彼も変化していたのかもしれません。
"夫育て五カ条"は、社会や力に屈することなく、自分の理想を叶える。ある意味、女性ならではの掌握術のようなもの。できるなら、やった方が断然いい。
残念ながら私にはできなかったけど、“夫育て”あなたはいかがでしょうか?やってみる価値は大いにあると思います。
どうか、これを読んでくれているあなたとって、ベストな関係性が築けますように。
男性も女性も古い価値感なんかに囚われずに、心地よいパートナーシップを育める社会になることを私は心から願っています。