女性の「好きだけどしたくない」気持ちとの向き合い方(後編)

こんにちは。パートナーシップと性のカウンセラー小野美世です。

「パートナーに対して、『好きだけど、大切だけど、セックスはしたくない』と思ってしまったときどうしたらいいか」今回は後編をお届けします(前編はこちらからお読みください)。

前編では、「この気持ちは変えられるのか?」ということを中心にお話しました。

さて、ご自身の心と向き合ってみても、いろいろな工夫を夫婦ふたりでしてみても、うまくいかない場合はどうしたらいいのでしょうか。

やっぱり「したくない気持ちが強い」「何かを工夫したいとも、もう思えないような状況だ」というお声も実際にいただきます。

自分に無理をさせてまで相手を受け入れるのはつらいと思われるなら、「しないと決める」というのもひとつの選択肢でしょう。ただそれを選ぶ際には、受け入れなければならないことがあります。

1.あなたが「しない」と決めるなら

好きだけどしたくない

『もう自分には、性のことやセックスを含むスキンシップをパートナーと楽しむ時期は終わったのだ。

自分の中にあるそんな気持ちを大事にしてあげたいという方もいらっしゃるでしょう。

そして、そもそも最初からその行為は自分にとってはあまり心地いいものではなかった方もおられると思います。

たとえばセックスを、「子どもを持つための行為」と捉えている方は、妊娠出産が終わったら、見える世界が変わってしまうでしょう。

恋愛していたときと、結婚してからとでは自分の感覚が変わっているのに、今さら無理したくないというのもひとつの自然な形なのかもしれません。

受け入れなければならないことがある

夫婦双方の、性に対する熱量や思い、したい度合いがずっとずれることなく同じなんてことは、ほぼありえないと言っていいでしょう。

ただ、もしも「もう私はしない」と決めるなら、それと同時に受け入れなければならないことがあります。

それは、自分の「もう、しない」という気持ちを、相手に押し付けることはできないということです

つまり、相手の「誰かと身体を合わせたい気持ち」までを否定しないこと。

相手が今後その気持ちを、あなたではない他の誰かと満たすかもしれないという可能性を受け入れ、禁止しないことです。

次の章で詳しく掘り下げていきます。

2.相手に「性の自由」を返す

前編に書いたように、「性・セックスのことは配偶者とのみ」というルールがあります。

あなたが、もうこれ以上自分を変えるのは無理で、「もう夫とはしない」と決めたいと思ったとしましょう。

その場合、相手の「誰かと肌を合わせたい気持ち」を禁止せずにいられるか、これまでは自分のところにあった『性的なことは配偶者とのみ』というものを、もう自分はいいですからと、相手に性の自由を返せるかどうかを考えてみてほしいと思います。

「え?」と思われることかもしれません。簡単に「いいよ」とは言えない、ハードルが高いことですね。

一方的な思いを押し付けないために

セックスをしたくない側が望んでいることは、「私はもうあなたとしないけど、あなたは他の誰ともしないでね」ということです。

したくない側が発するこの言葉は、想像以上に、したい側にダメージを与えます。

にも関わらず、「結婚してるんだから、私のためにあなたは一生我慢してよ」という主旨のことを、あまり深く考えずに言葉や態度に出しておられる方が多いと感じます。

自分はしたくない気持ちを我慢せず「もうしない」と決めるけど、相手に対して「したい気持ちを我慢してね、他の選択肢はなしね」という意味だと考えると、ちょっと一方的だと思いませんか。

「私はあなたから性についての自由を奪ったままにしておくけど、あなたはそのまま悩んで苦しんでね」ということになってしまうからです。

相手の性のことは相手が決める

性のことについて自分がどうするかを自分で決める、そして「しない」と決めるなら、相手が相手自身の性のことをどうするかは相手が決めること。

そこには、先に書いたように、「相手の、誰かと身体を合わせたい気持ちを否定しない」という要素が必要になるのではないでしょうか。

「しないと決める」というのは、そういったことも覚悟した上でしたほうがいい決定だと私は思います。

もしも「そんなのは受け入れられない」「結婚している状態はずっと続けたい」「この先今の家族の状態が壊れることなんて考えていない」と思われるなら、その気持ちを持った上でもう一度、コラムの前編を読んでみてほしいと思います。

3.「したい」側の切なる望み

したい側にとってつらいことのひとつは、セックスレスの問題を「二人で考える」「二人の問題だと捉える」姿勢が相手に見られないこと。

もちろん、「したくない」側の方にも、いろいろな気持ちがありますよね。

「どうして私が嫌って言っていることをしてくるんだろう」

「私の気持ちはどうでもいいの?」

「自分のことしか考えてないじゃない」

こんな気持ちが出てきて、セックスにつながるような言葉やスキンシップも避けることもあるでしょう。

話し合いをしたとしても「相手の思い通りにさせたくない」「うまく拒絶しないと私が我慢しなくてはいけなくなってしまう」という気持ちが働いて、「二人で考える」という姿勢がなくなってしまいます。

二人の問題」を放置し続けないで

したくない側が「二人の問題」として捉えてくれないことに傷つくと、「じゃあ他に相手を探してもいいんだね?」という主旨の言葉が、したい側から出ることがあります。

そうなると、「それは話が違う」「何言ってるの、結婚してるんだからそれはダメでしょ」「浮気するって脅してるの?」このような言い争いになることも少なくないでしょう。

夫婦間のセックスレスを「二人の問題」として扱わない姿勢に、パートナーの心が離れ、結果数年後に浮気や不倫の発覚という形で返ってくるのは、ご相談でも多々お聞きすることです。

相談される方は、これまでを振り返って、その原因がわかったときに、こんなふうに言われることが多いです。

あの時もう少し考えておけばよかった、でもあのときは本当に育児でつらくてそれどころじゃなかったのに、一方的にセックスを要求されたから…無理に応じるなんてできませんでした』

ペン

お話をきくと、応じられなかったのももっともだと思うこともたくさんあります。あまりに悔しいので何かで夫に仕返ししたかったと言われる方もいます。

要するに、種はいろんなところに撒かれていたのです。すでに、あのときにもこのときにも夫婦のすれ違いが起きていたということなのです。

そしてそれを放置して、ここまできてしまった。その結果、今芽が出ているのかもしれません。

自分個人としては、もうセックスはなくていい。だけど、相手はそう考えていなくて、夫婦としてはまだ必要だというとき。まずは、自分のためにも相手のためにもセックスレス を「二人のこと」として捉えてみてほしいと思います。

結論は、夫婦の数だけある。

夫婦ごとに、お互いの価値観、性・スキンシップがないとどのくらい困るのかという度合い、夫婦と家族の今後についての気持ちなど、夫と妻の組み合わせによってもかなり事情が変わってきます。

一方がしないと決めて、もう片方が(はっきりと明言はしないけれど、おそらく)婚外にパートナーを作って、それで家庭が穏やかになったケース。

離婚は避けたいから工夫をし続ける方向に決めたものの、実際は動きがなく膠着しているケース。

長い間工夫をしてきたけど、最近相手に性のパートナーができるのを認めたケース…

夫婦ごとにやはり結論は違います。とてもじゃないけどそこまで話し合えないと思われる方もいらっしゃるでしょう。

まずは、自分ひとりでできることから。自身の心の中にある気持ちをよくみてみることから始めてみてほしいと思います。

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