Q.「家に帰りたい」と言い続ける施設の祖父への返答に困ってます

年齢・職業・性別問わず大好評の「いっぺん死んでみる〜今を生きるためのワークショップ〜」を主催する、訪問診療医の「上原暢子(うえはらのぶこ)」先生。

ここは、暢子先生の身も蓋もないかもしれないけど真剣なお悩み相談室です

先生の専門である介護や看取りにまつわることはもちろん、子育てや仕事の悩みなど、幅広いジャンルの悩みに回答していきます。

本日のお悩み

89歳の施設入居中の祖父についてです。月に1~2回、リモート面会に行っているのですが、毎度「家に帰りたい」と泣きつかれ、時には叫ばれ、返答に困っています。

施設のスタッフからは、祖父が夜間も「家に帰りたい!」と暴れるため、睡眠薬と精神病薬も使っていると言われました。

とてもお世話になっているので何とも言えないのですが、複雑な心境です。

家には祖母がいるため祖父を家に戻すのは現実的ではなく。。私はなんと声をかけてあげれば、祖父の心は穏やかになるでしょうか。 

暢子先生からの真剣な答え

なんと声をかけてあげれば、お祖父様の心が穏やかになるか。

残念ですが、そんな言葉はありません。笑

これを解決することのできる言葉があるのなら、私が教えて欲しいくらいです。以上です(終)。

はっっっすみません、初っ端の質問だというのに、いつもの調子で答えてしまいました。

介護に限らず、これは子育てでも人間関係でもそうですね、四方八方全て満足させることのできる答えは、なかなかありません。ですが、まだまだできることがあるように思います。

実際、長年暮らしたご自宅に住んでいるのに「家に帰りたい」とおっしゃる方はたくさんいます。

「家」とはどこなのか。それは「家」という形ではない場合もあります。幼少期に見た風景かもしれません。

89年間の記憶の中の「家」は、質問者様の思う「家」ではないかもしれません。

お祖父様が帰りたい場所はどんな所なのでしょう?

「なぜ」家に帰りたいのか。以前、施設に入居されていた方でそうおっしゃる方に、家族のいないところで理由を聞いたことがあります。

答えは「へそくりが心配」。

................。

ご家族に聞いてみたら小銭を集めた缶だったのですが(笑)、気がかりなことは人それぞれのようです。ぜひ、ここも話を掘り下げてみてください。

お祖母様が家にいらっしゃるために帰れないのだとしたら、お祖父様がご自宅へ外泊される間だけ、お祖母様にショートステイに行ってもらうのはいかがでしょうか。

外泊という形で帰るだけでも、何か新しい発見があるかもしれませんし、ないかも知れない。

でも思ってもみなかったところに答えがあるかもしれません。できそうなことは片っ端からやってみる。

そして私が一番気になったのが「お世話になっているから何とも言えない」。

お世話になっていても、こちらの要望は伝えることはできます(対応可能かどうかはまた別の話ですが)。

感謝を伝えつつ、疑問や要望も伝えてみてください。施設にとって入居者様とご家族は、お客さんです。

対応に納得がいかなかったら、希望を叶えられそうな他の施設を探すことや、担当医を変える事も是非視野に入れましょう。

睡眠薬と精神病薬を使っていることに対しての「複雑な心境」とは、「誰が」「どんな気持ち」なのでしょう?

(例)「あなたが」「そんな薬を飲んで欲しくない」?

優先されるべきは、誰の心地よさ・誰の気持ちでしょうか?
私?お祖父様?お祖母様?

「会話ができる=コミュニケーションが取れている」とは限りません。

これは、お祖父様だけではなく、目の前の人全てに当てはまることです。

目の前の人が見ている赤と、あなたが見ている赤は、同じ色とは限りません。病気も老化も、すっきり解決できることの方がまれです。

あれやこれや思いを巡らして話を聞いてあげることしかできないかもしれません。でも、それで十分です。あなたは本当に、よくやっていると思います。

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